空き家の得する相続のしかた~空き家の節税対策~
一人暮らしの親が亡くなり、空き家になった住宅を相続する場合に、何か税金の観点から検討すべきことはあるのでしょうか。
または、親が亡くなる前に、何か対策をしたほうが有利なのでしょうか。
今回は、昨今、とても頻度の多い問題である、空き家の相続対策について考えてみようと思います。
まとめ
結論から言いますと、いろいろな制度があること、何を対策の軸に考えていくかにより、打つべき対策が変わってきます。
複雑な税務関係等ありますので、現在、空き家を保有している人や、将来的に空き家が生じそうな人は、相続発生前に専門家への相談をした後、親族間で協議する必要があると思います。
これから、空き家や居住用財産にまつわる、節税制度の説明等をしていきます。細かな話になりますので、いろいろな制度があるんだなぐらいに捉えて頂ければと思います。
小規模宅地(特定居住用)の特例の考え方
通常、亡くなった方の住宅地を相続した場合は、居住用宅地として、小規模宅地の特例を適用し、相続税額が減額となる場合があります。
ですが、小規模宅地の特例を適用するためには、相続開始(お亡くなりになった日)の直前において、お亡くなりになった方の居住の用に供された宅地である必要があります。
この「相続開始の直前において」とは、例えば、病気の関係で病院に入院していて、その後、病院でお亡くなりになられてしまった時のようなケースでは特に問題なく、生前に暮らしていた宅地が「居住の用に供された宅地」と判定されるものと思われます。
一方、例えば、一人暮らしをしていた親が、老人ホームへ移住したような場合に、その暮らしていた居住地は、通常は「居住の用に供された宅地」とは判定されず、そのため、小規模宅地の特例も適用できなくなるケースが多いです。
ここで、老人ホームへ入所したことにより、空き家となった住宅地であっても、小規模宅地の特例が使えるケースがあります。
老人ホームへ入所しても小規模宅地の特例が使えるケース
下記の2点(下記1.及び2.)を満たす場合には、老人ホームへの入居を理由に空き家になった宅地についても、その宅地の相続税評価額について、特定居住用宅地といしての小規模宅地の特例の評価減が使えます。
1.居住の用に供されなくなった理由
(1) 介護保険法第19条第1項に規定する要介護認定若しくは同条第2項に規定する要支援認定を受けていた被相続人又は介護保険法施行規則第140条の62の4第2号に該当していた被相続人が次に掲げる住居又は施設に入居又は入所をしていたこと。
イ 老人福祉法第5条の2第6項に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、同法第20条の4に規定する養護老人ホーム、同法第20条の5に規定する特別養護老人ホーム、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム又は同法第29条第1項に規定する有料老人ホーム
ロ 介護保険法第8条第28項に規定する介護老人保健施設又は同条第29項に規定する介護医療院
ハ 高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条第1項に規定するサービス付き高齢者向け住宅(イの有料老人ホームを除きます。)
(2) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第21条第1項に規定する障害支援区分の認定を受けていた被相続人が同法第5条第11項に規定する障害者支援施設(同条第10項に規定する施設入所支援が行われるものに限ります。)又は同条第17項に規定する共同生活援助を行う住居に入所又は入居をしていたこと。
2.入所後の利用状況
空き家を新たに次の用途に供していないこと。
- 事業の用(貸し付けを含む)
- 被相続人または、上記1.の入所等の直前において被相続人と生計をいつにし、かつこの建物に引き続き居住している被相続人の親族以外の者の居住の用
3.申告時の注意事項
老人ホームへ入所したことにより空き家になった自宅について、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、特定居住用宅地の特例の適用を受けるための通常の書類の他に、次の書類を相続税申告書に添付して税務署へ提出する必要があります。
- 被相続人の戸籍の附票の写し
- 介護保険の被保険者証の写しその他の書類で、上記1.の認定を受けていたことを明らかにするもの
- 入所していた老人ホームの名称、所在地及び上記1.(1)のいずれの施設に該当するかを明らかにする書類
相続した空き家を譲渡した場合 3,000万円控除が使える?
親が亡くなって空き家になった住宅を相続した者が売却する場合に、一定の要件を満たすと、譲渡所得(売却益)から3,000万円を控除することができます。(相続税の取得費加算特例との併用は不可です。どちらかを選択しなければなりません。)
適用対象となる住宅等の要件
- 相続開始の直前まで被相続人が住んでいた居住用家屋とその敷地である土地等であること。
- 区分所有建物(マンション等)でないこと
- 昭和56年5月31日以前に建築されたものであること(古い建物)
- 相続開始の直前まで同居人がいなかったこと(被相続人が一人ぐらしだった)
このうち、1つ目の要件である、「相続開始の直前まで被相続人が住んでいた」ことですが、生前に所定の介護施設等に入っていて空き家状態になっていた場合であっても、被相続人が要介護認定等を受けていて、その介護施設に入居せざる負えないような事情がある場合には、この要件を満たすと判断されます。
譲渡時の要件
- 2023年12月31日までの譲渡であること
- 相続発生日(命日)から3年を経過する日の属する年の年末までに売却していること
- 売却代金が1億円以下であること
譲渡する資産の要件
譲渡する方法は下記の2パターンのみ認められています。
- 空き家を新耐震基準に適合するようにリフォームして敷地とともに売却するパターン
- 空き家を除却(撤去)して、更地にして売却するパターン
また、上記2つのパターンのどちらにも言えることですが、相続の時から売却までの間、事業、貸付、居住用として使わないことが要件となっています。
さらに、売却の相手方は基本的には親族関係にない第三者である必要があります。そして、過去に当該特例を受けたことがある場合には、使うことが出来ません。
手続き関係
売却した不動産が上記の「適用対象となる住宅等」の要件を満たすことを、地方公共団体の発行した証明書を取得し、所得税の確定申告書とともに税務署へ提出しなければなりません。
小規模宅地の特例と空き家の譲渡特例との関係
この空き家の譲渡特例は、空き家ということが前提なので、被相続人と同居している親族がおり、そのものが相続により空き家を取得したような場合は、小規模宅地の特例は適用出来ますが、実際にその家を売却するような時には、空き家の譲渡特例は使えないことになります。
一方、いわゆる「家なき子」として、小規模宅地の特例を適用した相続人の場合には、小規模宅地(特定居住用)の特例と、空き家特例の両方の適用を受けることができます。
なお、同居している親族が相続により居住用財産を取得し、その財産を将来売却するような場合には、この空き家特例は使えないとお伝えしましたが、下記の居住用財産の譲渡時の特別控除を使うことができる可能性があります。
住宅の売却(居住用財産の譲渡)は税制優遇がある!
マイホーム(居住用財産)を売却した場合、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。
これを、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例といいます。
特例を受けるための要件
この特例(3,000万円の特別控除)を受けるためには、下記の要件等を満たす必要があります。
(1) 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(注) 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件全てに当てはまることが必要です。
イ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
ロ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
(2) 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。
(注意) このマイホームを売ったときの特例は、次のような家屋には適用されません。
- この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
- 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
- 別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋
相続したマイホームを売却してもこの特例が使える
一旦、相続したマイホームを相続人が自己の居住用として使用するようなケースでは、この特例を適用するために一時的に入居していたと認められない限りは、この3,000万円控除が適用できることになります。この特例は、ご覧の通り、上記の空き家の特例よりも適用要件がゆるいため、使いやすい制度といえるでしょう。
また、老人ホームに入居するため、自宅を売却したような場合でも、この特例が適用可能です。この特例は、特に相続が発生していなくとも使うことができるのです。
相続が発生してから売却した方がいいのか、相続する前に売却した方がいいのか?
将来、空き家になると予想されるようなケースでは、相続発生前に、上記居住用財産の譲渡の特例を適用して売却した方が、空き家特例と比較して、譲渡所得の3,000万円控除を受けやすいといえると思います。適用要件が、居住用財産の譲渡の方が緩いためです。
また、遺産分割対策及び納税資金対策という側面では、不動産を相続するよりも、換金性の高い財産(現預金、金融資産、保険等)を相続することの方が、遺産分割はスムーズに進む(相続人間で揉めなくて済む)ケースが多いので、相続発生前に居住用財産を売却すると、この点も有利になるかと思います。
一方、相続税の節税という面では、一般的に不動産で保有している方が相続税評価額が安くなり、また、小規模宅地の特例が適用できるケースがあることから、居住用財産(不動産)として保有している方が有利になるケースが多いです。また、いわゆる「家なき子」等が相続により居住用財産を相続するようなケースですと、小規模宅地の特例と、空き家特例の両方が適用にある場合があり、相続税・所得税の両方で有利な取り扱いを受けることができる可能性があります。
このように、一概には、どちらの方が有利なのかという回答が難しいので、その他の相続財産の把握や、居住用財産の売却価額・譲渡所得の発生可能性、今後この居住用財産をどうしていきたいのか、相続人間の関係等を総合的に勘案して、遺産分割対策、納税資金対策、相続税対策の3点からどのアクションプランが最適なのかを十分に検討する必要があると思います。
相続対策はできるだけ早い時期に検討した方が、より有効となることが多いです。
財産を残す人、財産を相続する人それぞれが、現状把握を行い、どのような対策を打っていくべきかと整理するために、早めに親族人間で話し合いの場を設けるのがよいのではないでしょうか。
その時に、税理士等の専門家に相談しておくと、より有効な対策案が見つかるかもしれません。お気軽にご相談ください。